今回ご紹介するのは、秋さまこと木村秋則さんが、来日したケニア人に自然栽培法を指導した時のエピソードです。とても考えさせられる内容でしたので、著書「リンゴの心」より、抜粋します。
ケニア人と共に過ごした4日間
あるとき秋さまが愛知県に農業指導に行ったときのことでした。たまたま自動車工場を視察に来ていた5人のケニア人に出会いました。秋さまのことを聞いた彼らは、自然栽培を学びたいと言いました。
ケニアには外貨がないので、肥料や農薬を輸入することはおろか、植物の種を買うことすらできません。そのため農薬・肥料を使わない自然栽培はケニア人にとって画期的な栽培法でした。
また、このときケニアは都市部がスラム化し、食べものの奪い合いが起きていました。そんなケニアの状況を知った秋さまは、彼らに自然栽培法を教えることにしました。
使用する種はダイコン。4日後には帰国する彼らのために、2日ほどで芽が出てくる植物を選んだのです。ところがその時に限ってかん照りの日が続き、種を植えた場所も畑とはとうてい呼べないような土でした。
そこでダイコンの種を植える時に、ビールの空き瓶を利用することにしました。瓶の底を土に強く押し当て溝を作り、霧がたまりやすいようにしたのです。それでも2日たってもダイコンの芽は出ず、秋さまはダイコンの種一つ一つに声をかけ、芽を出してくれるようにお願いしました。
「つらいと思うけど、ケニアの人たちのために何とか頑張ってくれ」と。
そして…。
感謝する心
最終日の朝、私は歓喜の声で起こされました。どうしたんだろうと思い外へ出てみると、畑で彼らが踊っていたんですよ。それも裸足で!大根の芽が出ていたんですね。それがうれしくて、全身で歓びを表していたんです。彼らは踊り終えると、その場にひざまずき、地べたに額をつけて感謝の言葉を捧げていました。通訳に聞いたら、精霊に感謝しているのだと教えてくれました。精霊に感謝し土にも種にも感謝する。そんな姿に私は心を打たれました。
短い期間ではあったけれど、私は彼らと一緒に過ごしていて不思議に思っていたことがあったの。それは何かって言うと、彼らは畑に入るとき、必ず靴を脱ぐんですよ。わざわざ裸足になって作業を始めるわけ。どうしても気になって、彼らが帰国する日にその理由を尋ねたんです。
すると彼らは「畑は命が生まれるところです。靴を履いて歩いたら失礼になります」と笑顔で答えてくれました。
私はハッとさせられました。私たち日本人にかけているのは「まさにこれだ」と思いましたね。彼らにとって畑とは、ただ「作物を作るためだけの土地」ではなくて「聖なる大地」なんですよ。みんなが彼らのような気持ちになれば、むやみに肥料や農薬なんて使えません。だから私は、作物を作る農家には栽培法を、消費者には食べものを変えましょうって呼びかけているんです。そのときに、このケニア人たちのことを話すんです。
著書:リンゴの心– 木村秋則/荒了寛
感謝することの大切さ。感謝するからこそ土、草、虫、作物、動物、水、人、地球、全てのものを慈しむ気持ちが生まれる。そして全てのものには、そこに存在するだけで意味があるのだと、改めて学ぶことができた1冊でした。